2023年9月11日
みんなの広場

元帰国子女の海外子育て

      海苔チーズの横にはマシュマロを塗ったトースト

「ごはんよー。」
 朝から家の中でああだこうだと言いながらキャッチボールをする三兄弟に声をかける。食卓に載せたのはパン、目玉焼き、フルーツ。我が家ではいつもの光景だが、その内容はもしかしたらちょっと変わっているかもしれない。パンの上にはメキシカンチーズと、味付け海苔。目玉焼きはポテトチップスの上に割り入れて焼いたもの。
 ポテトチップス入りの目玉焼きは、私の姉がその昔アメリカ人の友人の家に泊まった日の朝食に出されたという一品。油分と塩分がちょうど良い加減に目玉焼きと絡み合う、朝から食欲旺盛な男子飯に最適な味だ。
 三十年前にも私は父の駐在でアメリカに住んでいた。四歳から九歳までの間だったので、ぼんやり残っていた記憶や体の感覚が、夫の駐在で再びこの地で生活を始めた途端に鮮明に蘇ってくる。
「昨日の休み時間は何してたの?」
「ぶらんこ」
「そっか~、いいぶらんこがあって良かったねえ」
 次男は英語に触れる時間の短いまま入学したキンダーガーテンにまだ馴染めていない。それでも毎日通っているだけで十分だ。私もアメリカ現地校で話せなかったことでお絵描きとお手紙交換能力を向上させたもんな。
「明日はハッピーフライデーだからコナーの家で遊んでくるね!」
 対して長男は早々にアメリカ生活に染まり、日本語補習校の宿題も疎かに現地校生活を楽しみまくっている。日本に戻ると揺り戻しのカルチャーショックに悩まされそう。
 二カ国の言語と文化が小さな体に入っていく。一人一人で異なった形を取って、木目がまだら模様を描くように。
 その模様がどんな形を取っているのか、外からは見えない。それは、文章の中で言語が混じったり、友人付き合いでのトラブルだったり、学校への行き渋りだったり、そういう細かい事象となって表れてくる。その都度で模様をスケッチしていけばおおよその輪郭を外側から捉えることもできるかもしれない。でも、ディテールまでは、親も本人も掴みきれない。

地下室で野球遊び


この先、子どもたちは数々の違和感に遭遇するだろう。そしてそのたびに、それが常識である他の子どもたちに遅れを取ったり、ストレスを感じたりするだろう。

 そんな時にはこの、ユニークなまだら模様のままで違和感に対峙していってほしいと思う。違和感を超えた先にある、どの場所でも共通する喜びや楽しさを、子どもたちの体は知っているはずだから。

 ものの数分でオリジナル朝食を食べ終えた彼らは、またボール片手に走り去って行く。ボール遊びだって万国共通の、世界言語よね? 半ば自分自身に言い聞かせるように、引っ越しや転校に精一杯でお行儀も勉強も教えられていない自分を自分で慰める。

窓を開け、乾いて冷たいアメリカの空気を吸い込む。目の前に広がるコーン畑。体のどこかで木目の一部が、その空気を懐かしがって喜ぶ。「フルベース! ホームラン!」キャアキャアと子どもたちが笑い、駆け回る音が、響いている。

(筆者 Makiko)

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