<質問> 海外赴任が決まりました。何をすべきでしょうか。
海外赴任決定、おめでとうございます!
赴任決定を通知されたときの、あるいは自ら海外在住を決断された時の高揚感、そしてほんの少し胸をよぎる不安感。たとえ二度目であっても、海外から海外への横移動であっても同様です。誰でも味わえるものではない特別な気持ちです。
赴任決定、おめでとうございます。決まったからには、明るく前向きに準備を進めていきましょう。
海外赴任が決まったら
何はともあれ、家族でよく話し合うことが大切です。「家族で話し合う」これは赴任前だけではなく、赴任中も帰国後も続く大切なキーワードです。家族同士の了解、納得そして信頼こそが海外赴任を充実したものへと結びつける源だと思います。
海外でのマイノリティ体験は、否が応でも家族のきずなを深めます。だからこそ、不安をため込まず、家族みんなで解決策を模索していきましょう。「海外赴任で家族の結びつきが強くなった」とおっしゃる方々はたくさんいます。
さて、赴任決定後にまず考えるべきことは、お子さまの帯同の有無です。これには、赴任先の治安や生活環境、学校制度や学校事情が関わります。情報の収集が非常に大切になります。
また、家族同時での赴任なのか、扶養者があらかじめ何か月か前に渡航されるのかも、準備を進めるうえで大切なポイントとなります。
渡航前の学校選択
小・中学生のお子さまを帯同される場合、赴任地での日本人学校の有無、国際的に認可されたインターナショナルスクールの有無、教育の質が充実している現地校の有無、補習授業校の有無などが、学校を選択するうえでの大きな判断材用になります。
これによって、行く学校がおのずと決まる場合もあります。
一方で、選択可能な学校が多く揃っている場合は、赴任期間、お子さまの年齢、お子さまの性格や本人の思い、ご家庭の教育の方針、金銭面などによって選択することになると思います。
日本人学校は、世界に94校、約1万5千人弱の児童・生徒が通っている文科大臣認定の私立学校です。ほとんどが小中一貫校で、担任は文科省から選抜された派遣教員がほとんどです。現地校交流など現地理解教育と英語や現地語の学習など独自のカリキュラムで教育を行っています。
幼児であれば日本人学校幼稚部を含む日系幼稚園の有無、質の高い幼児教育施設の有無などを調べることから始まります。しかし、義務教育に比べると赴任国の情報が少ないのが現状です。兄弟関係に寄るところもあると思いますが、焦らず現地に行ってから自分の目で施設や幼稚園を見られることをお勧めします。
また、現地の幼稚園やインターナショナルスクールの幼稚園に通わせる場合においては、母語(日本語)の扱いについてご留意下さい。
母語は人間形成、感性といった成長の基盤となる言葉です。学習における思考力や判断力、理解力、想像力、そしてアイデンティティの形成の礎となります。外国語を身につけていくのも母語の力がもとになることは様々な学者の論文で証明されています。
母語が急激に発達するのは2~4歳。完成するのは小学校2~3年生です。日本語での学習環境がない場合は、絵本の読み聞かせやリモート学習、家族内での会話などに力を入れる必要があると思います。
さらに受験を控えた、お子さまについては、家族の方針と並行して、本人の気持ちが大切になります。特に高校入試や大学入試のタイミングと重なった場合は、話し合いが必須です。
現地校やインターナショナルスクールを選択する場合、赴任国(州)のCut Off Date(就学年齢基準日)との関係も見逃せません。どのグレードでお子さまが編入(入学)し、帰国するのか、あらかじめ渡航から帰国までのプランを立てておく必要があります。
例えば、アメリカやイギリスあるいは英米系のインターナショナルスクールでは、9/1を就学年齢基準日に設定しているところが比較的多いです(アメリカは州によります)。4月~8月生まれのお子さまの場合、小3で渡航して、8月末の新学期を迎えた時にG4となります。一方で9月~3月生まれは、8月末の新学期G3となります。日本では同学年であっても、海外では異なる学年になります。
また、選択の一つの条件として、ESL(英語の個別支援)の充実度が大切になってきます。アセスメント形式とその活用、ESL教室の方式と支援の方法などを見極める必要があります。ダウングレードの可否も含め、学校の選択と並行して赴任先での住居探しを行うことになりますので、話し合う内容は多いでしょう。
さらに、帰国後の帰国予定地での帰国生受入校の情報も欠かせません。
現地校やインターナショナルスクールに通学する場合の準備
小学生の場合は、自分の名前が言える、書ける。自己紹介で年齢や学年が言える。基本的な挨拶ができる。教室で使う表現や単語、先生の指示語がある程度理解できるなど、海外子女教育振興財団発行の「サバイバルイングリッシュ」を活用されると良いと思います。中・高校生は、日記を英語で書いたり、ラジオ・テレビ英語講座の利用をしたり、英語のテレビや映画を聞くのに慣れたりしておくことも肝要かと思います。
備忘録
まずは、パスポートの取得とビザの確認です。ビザは渡航先、渡航目的、滞在期間によって異なります。国際情勢などによって手続きの変更を余儀なくされる場合もありますので、渡航先の大使館や総領事館への確認は必須です。国際プリペイドカード、国際キャッシュカード、現地クレジットカードなども適宜準備しておきましょう。
赴任直後から直ぐに運転免許が必要な場合があります。いずれは当地で運転免許証を取得するにしても、あらかじめ国外運転免許証を取得しておくと便利になります。ジュネーブ要約締結国であれば運転可です。
次に、予防接種と健康診断です。渡航する地域や基礎疾患、年齢によってさまざまな状況が考えられます。ホームドクターへの相談に加えて、トラベルクリニック等専門医へ相談してください。歯医者なども含め、赴任国の医療事情、日本語の通じるクリニックなどの情報も調べておくと良いと思います。歯の治療やコンタクトレンズ、常備薬などは、ある程度準備しておくと良いでしょう。
赴任が正式に決まったら、学校への転校の連絡も欠かせません。教科書給与証明書、在外証明書、現地校やインターナショナルスクールの場合、成績証明書(英文)などを用意してもらいましょう。中等教育学校や大学附属校などに在籍の場合、帰国後に復学は可能なのか等の確認をとっておきましょう。
赴任2カ月前になったら、海外で使用する日本の教科書を海外子女教育振興財団から無償で受け取れます。 荷物に関しては、船便にするのか航空便だけにするのかを決める必要があります。船便の場合は、2カ月前には荷造りを終えておく必要があります。
教育相談のご活用を
様々な準備について書いてきましたが、赴任は、赴任先や家族の状況によって家庭ごとに異なります。心配事は一人、あるいは家族だけでは解決できないことも少なくありません。お困りのことがあれば、海外子女教育振興財団の教育相談をご活用いただくことをおすすめします。帰国生受入校や在外教育施設で教育に携わってきた17名の教育アドバイザーが待機しています。
何を相談したら良いのか戸惑われる場合は、「赴任前子女教育セミナー」の受講をおすすめします。ひと月に約3回のペースで開催しています。ここで話を聞いてから、ご家庭で課題を話し合い、教育相談に臨まれても良いでしょう。
教育相談の内容は、各ご家庭のご相談に応じて、赴任から帰国までのスケジュールと留意事項の提示。赴任国の教育事情から学校選択の方法、日本人学校、現地校、インターナショナルスクール、補習授業校の特色。赴任地の就学前の教育事情。母語と英語の習得について。渡航までの準備の確認。帰国後の学校選択、帰国後の外国語保持など、内容に合わせて、資料をもとに丁寧に相談させていただきます。ぜひご活用ください。
異国の地で学ぶ意義・生活する意義
まず、異文化・マイノリティ体験を存分に味わってください。お子さまは学校行事や授業、部活、サマースクールなどで体験できます。また、家族で食事に行ったり、旅行したりするのも貴重な体験です。
辛い体験も、楽しい体験も失敗も成功もすべて力になります。その体験がそのまま異文化習得につながっています。その習得が多面的・多角的な思考をする感性へと育まれていくのです。帰国後、お子さまは帰国生として、海外で体験してきたことが学校生活のみならず、様々な人生の局面で役立つと確信しています。
実りあるものにするもしないも、お父さまやお母さまの心持ち次第でしょう。充実した海外生活を送られることを心より願っています。
<回答者> 海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 田村 穣(たむら みのる) 1985年 東京学芸大学教育学部教育学修士修了 1987年 鳥取県中学校社会科教諭として勤務 2001~2004年 ブラジル・サンパウロ日本人学校に教諭として勤務 2007年 教頭として勤務 2014年 校長として勤務 2018年 全日本中学校長会副会長・全日中鳥取大会実行委員長 2020~2023年 米国・シカゴ日本人学校に校長として勤務 2023年~ 海外子女教育振興財団に教育アドバイザーとして勤務 2024年 全国海外子女教育研究会鳥取(米子)大会発表