子どもだけ先に帰国して寮生活をします。思春期の子どもと離れて暮らす際の留意点
2024年7月16日
子どもの教育

子どもだけ先に帰国して寮生活をします。思春期の子どもと離れて暮らす際の留意点

 <質問> 
高校生になる子どもだけが先に帰国し寮生活をすることになりました。親はどのようなフォローをすべきでしょうか。思春期の子どもと離れて暮らす際の留意点を。
子どもだけ先に帰国して寮生活をします。思春期の子どもと離れて暮らす際の留意点

 寮生活の意義

大切に育てた子どもが一人で生活するようになることは、保護者の皆さんの中には身を切られるような思いをされている方もいらっしゃるかと思います。

 

しかし、いずれ実社会に旅立っていくためには社会性を身につけていく過程が必要です。

 

学校教育の目的は知識を得ることだけではなく、子どもたちの作る小社会を通じて社会性を養うこともその一つです。なかでも寮生活は社会性・協調性を身につける絶好の機会と言えましょう。    

 

さて、中高生の時期に様々な事情があって寮生活を選択する際には何に留意したらよいのか一緒に考えてみましょう。    

 

寮生活は個室があるとしても基本は共同生活です。それも家族のような心を許した関係ではなく、価値観も文化も場合によっては言葉も異なる集団の中での生活となります。お子さんにとってはとても大きなチャレンジであって、その結果として得るものは大変大きいものでしょう。    

 

いわば日々の当たり前の生活を送るなかで、ご本人の価値観を問われるような異質なこととの出会いからはじまり、どのようにして集団の中で生活をしていくかを考えることにより社会性・協調性が養われることになるでしょう。    

 

学校の寮は、さらに学習面での指導や刺激も大きく、個人ひとりで学習しているより意欲的で効果的な学習環境を得られることでしょう。    

 

思春期まっさかりの中高生は、幼少期とも社会人・大学生の時期とも異なる独特の期間を過ごしており、精神的な成長の著しいときです。この時期に同年代の他人とともに、勉学のみならず共に生活できるということは豊かな精神生活を築くよい機会であると言えます。

子どもだけ先に帰国して寮生活をします。思春期の子どもと離れて暮らす際の留意点

さまざまな寮

学校の寮にはいくつかの形があります。  

たとえば、寮生活の意義を前面に出して、学校教育と寮生活が強い連携をもっている教育寮では、寮生活による教育理念を達成するため全寮制になっている場合が多くあります。このタイプの寮の場合、生活指導のために寮生活の時間が比較的厳しく決められています。学校のめざす教育理念について学ぶ場があり、その理念に基づく生活態度を勧められることがあります。   

 

学習の時間が夕食後や登校前にも定められていることもあります。また、学習塾との提携があって直接塾講師による指導があり、個別指導、オンラインによる指導も受けられる場合もあります。   

 

一方、国内遠方や海外に保護者がいらっしゃる生徒の受け入れのためを主目的としたいわば生活寮もあります。共同生活ですから寮生活のルールはきちんと決められていますが、いつ学習するかなどはそれぞれが自主的に決めることになります。無自覚な生徒の場合は(悲惨な)成績が保護者に届けられることになることもありますが、他の生徒の学習姿勢(時間・内容)に驚かせられ、よい刺激を受けて学習態度が大きく変わり学習方法を具体的に知ったことで成績が向上することもあります。    

 

生活寮の場合に限りませんが、生徒主体による寮独自の行事なども企画されることも多いと聞きます。    

 

お考えになっている寮が、以上の教育寮と生活寮のどちらの要素が多いのかを確認してみることも一つの視点になります。    

 

そのほか、寮と言っても、スポーツ部や音楽部の合宿寮の場合は目的がはっきりあるため、一般の学校寮とは異なるところがあります。学校指定の寮として民間運営の寮を利用している場合もあります。大学生寮に付随しているものもあり、セキュリティはしっかりしている場合が多いですが生活指導の態勢について確認しておく必要があります。

 

また、半公的な県民学生寮や会社の社員寮などで生活をしている生徒もいます。    

 

雇用関係法の改正により、従来のように教員の寮監が24時間住み込み勤務ですべてを管理することは難しくなっており、学校としては生活指導体制と保安体制についての再検討が必要となっているようです。学校の寮が現在どのような管理体制になっているのか確認する必要があります。

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学校寮のメリット  

寮生活のメリットをまとめてみましょう。  

 

・同世代の生徒と生活することにより、友人として厚い絆ができる。 

・規律ある生活を体験し、時間を守ることを実践できる。 

・通学時間がないため、部活動や学習にじっくり取り組むことができる。 

・他人の学習の様子を目にすることで、独りよがりになりがちな学習方法を改善できる。 

・放課後、寮に戻ってからも教員等から学習指導を受けることができる。 

・共同生活をすることでしか得られない経験を共有して、多くの楽しい思い出ができる。 

・家族と離れて生活することにより、家庭(保護者)のありがた味を実感できる。 

・自分で決めることが多く、自立心が否応なく育成される。 

・自分で洗濯や掃除や片付けをするため生活力がつく。 

・偏食が改善される。

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学校寮のデメリット   

つぎに、寮生活のデメリットをまとめてみましょう。  

 

・家族と過ごす時間が少なくなる。 

・ホームシックになる可能性がある。 

・プライベートな時間が少なくなる。 

・気の合わないルームメイトの場合、ストレスとなる。 

・寮の厳しい規則・教育方針に合わない場合がある。 

・上下関係など人間関係のストレスをはじめ、いじめや暴力の問題が起こり得る。 

・入寮前から人間関係に困難がある場合、改善されるとは限らない。 

・盗難などがあると金銭的な損失だけでなく、他人に対する不信感を持つことになる場合ある。 

・食事が合わない可能性がある。 

・寮費、食費以外にも生活上の出費がある。 

・悪いことに巻き込まれることが無いとは言えない。 

・繰り返して規則を破るなどの理由で退寮処分を受けると行き場がなくなることになる。

子どもだけ先に帰国して寮生活をします。思春期の子どもと離れて暮らす際の留意点

保護者は何ができるでしょうか。   

寮といってもさまざまな形があり、運営の方針もそれぞれ違うため、なるべく情報を得て、お子さん本人の希望と家庭の方針に沿っているかどうかを確認する必要があります。寮に期待していることとの齟齬(そご)がないようにしたいものです。   

 

入寮が決まったら、寮の管理者・担当の教師などとなるべく接触して信頼関係を持つように努めてください。相談や連絡が必要な場合の窓口、緊急時の対応がどういうシステムになっているのかなどについて確認しましょう。   

 

海外や遠隔地に在住の場合、寮の担当者やホームルーム担任の教師と面談する機会も少ないので、あらかじめ予約して一時帰国時などに面談の機会を持つことは大切です。    

 

お子さんが寮生活をしている場合、その期間は学校と寮とにほとんどを任せることになります。そこで大切になってくるのは、学校側と信頼関係を持つことです。そのためには何かが起きてからでなく、平常時から連絡を取り合うことが大事であることはいうまでもありません。どうしても信頼を置けないのであれば入寮自体を考え直したほうがよいでしょう。   

 

生活全般を寮で過ごすので、お子さんにとって不便なこと、不満が出ることは避けられません。見過ごせない大きな問題もあるかも知れませんが、多くは日常の些細なことですから時間が解決することも多いものです。    お子さんの気持ちをよく聞くことは大切ですが、寮管理者にクレームを入れるというような姿勢より、問題を情報交換の一部として共有し、一緒にお子さんを見守るという関係がよいでしょう。    寮生保護者会などがあればぜひ参加を検討してください。   

 

また、お子さんとはネットを通じて毎日のように連絡を取り合える時代ですから、定期的な連絡をとることは大事です。    

 

入寮当初はホームシックでいつも連絡を絶やさなかったお子様も少しずつ変化します。さらになかなか返信が来なくなる時期も来るでしょう。思春期ですからやむを得ないところはありますが、保護者がいつも心に留めているということを伝え続けることが大切です。    

 

お子さんの様子を聞くだけでなく、離れている家族それぞれの様子を画像などで伝え合うなどして家族が一つである実感を持てるとお子さんの気持ちが安定し、心置きなく学校・寮生活を楽しめるのではないでしょうか。    

 

長期休暇のときにはぜひ、家族と共に過ごす時間を持ってください。海外の場合、費用がかかりますが必要な経費と考えましょう。    

 

家族と過ごす時間があってこそ、家庭という基地がある安心感を持って寮に元気に戻り、充実した学校生活を送ることができます。    

 

以上 寮生活についてあらかじめご理解いただき、充実した日々をお送りください。 

 

<回答者>  
海外子女教育振興財団 
帰国生受入校コンシェルジュ 
中山 順一(なかやま じゅんいち) 
帰国子女の受け入れを目的に設立された国際基督教大学高等学校で創立2年目から38年間勤務。6,000人以上の帰国生徒とかかわった。2008年より教頭 。教務一般以外に入試業務(書類審査を含む)も担当した。2017年より海外子女教育振興財団で教育相談員、2022年より帰国生受入校コンシェルジュを務める。