<質問> 中3の子どもはサッカー選手になる進路を選びたいようです。親としては困難な道のように思えて不安です。
「夢」が持てることの素晴らしさ
「あなたは将来、何になりたいですか。」
子どもの頃に誰しもこのような質問をされた経験はあると思います。そして、自分なりの夢を語っていたはずです。
しかし年齢が上がるにつれて、現実の厳しさが見えてきたり、周囲からいろいろな情報を吹き込まれたりして、その夢が変わっていったり、消えてしまったり……。
ご相談のあったお子さんのように、中学3年生で「サッカー選手になりたい」と自分の夢をしっかりと語り、そのための進路を考えているというお子さんは、まずそのこと自体が素晴らしいことだと思います。幼児や小学校低学年の時のように実現できる・できないにかかわらず憧れのように抱く夢とは違って、中学生になり、高校進学という現実の問題に直面しながらも自分の夢を持てるということは、そこまでのプロセスにおける苦労や、夢を実現できる可能性に向けての厳しさ等もある程度わかったうえで、それでもその夢の実現に向けて頑張りたいという意思をもっているということです。なんて素晴らしいことでしょう。
親御さんとして、そのことをまず認めてあげること、ほめてあげること、そして夢の実現のために応援してあげることを大切にしてあげてください。
「夢」の実現までのプロセス
子どもたちが「〇〇になりたい」という夢を抱いたとき、現実的にその夢に直結した職業や、その実現のために身に着ける知識や技術に目が向きがちです。
今回の例のように「サッカー選手」という夢は、大人から見たときに「プロの選手になれるのはほんの一握りの人だけなのだから、現実的には夢にしてほしくない」と考えてしまうかもしれません。
しかし、子どもが自分の夢や目標を持つということは、描いていた通りのゴールになるかどうかという「結果」だけが大切なのではなく、夢に向かって努力する「プロセス」に意味があるのです。
そのプロセスにおいて活動に対するエネルギーが生まれ、様々な力が身につきます。その力が描いていた夢が実現できずとも、他の進路を選んだ時にお子さん自身の大きな力となって役立っていきます。
「夢」に向かって行動することで身につく力とは
では、そのプロセスの中でどんな力が子どもたちには培われていくのでしょう。いくつか例を挙げてみましょう。
挑戦力
子どもたちが抱く夢は、あこがれから始まることが多くあります。その実現が簡単ではないことを子どもたち自身もある程度わかっています。それでも難しいことや、辛いことに積極的に挑んでいくのですから、失敗しても何度もやり直そうとする「挑戦力」が身につきます。
この、難しいこと、辛いことを乗り越えようとする「挑戦力」にこそ、大きな価値があるといっても過言はないでしょう。
探究力
「夢を実現させるためには何をすればよいのか」、それを考えることから夢の実現は始まります。サッカー選手であれば、どんなトレーニングが必要なのか、試合での作戦はどう考えていけばよいのか等、単なる思いつきではなく様々な資料や記録を調べて、自分なりの方法を探すこともあるでしょう。
他にも専門的な技術や知識を身につけるための勉強の方法を調べて実行する、実際に試してみる、うまくいかなければなぜうまくいかなかったかを考える……。
すべては本人の探究心からスタートし、実際の行動へと発展していきます。その過程の中で行動力や計画力も同時に養われていくのです。
調整力
「調整力」と一言で言ってもそれぞれの場面によって現れる形は変わってきます。スポーツにかかわる夢であれば、チームワーク力、相手を思いやる気持ちなどが養われます。
また人と関わる中で、自分の思い通りに物事が進まなくても相手と調整して折り合いをつける力、自分が一歩引いて人にゆずる力、それらも調整力です。
ほかにも様々な力をあげることができるでしょう。「夢」があって、その実現のために努力するからこそ身につく力はたくさんあるのです。
親としてできること
親は子どもに失敗をさせたくないから「待った」をかけたくなります。しかし、失敗を避けていくことが本当に子どもにとってよいことなのかをぜひ考えてみてください。
親としてできることは、全力でその夢の実現のために応援をすることです。夢を否定するのではなく、一緒に考えてあげる、行動してあげることがとても大切です。
そして、上手くいかなかった場合には「こんなやり方がある」「こんな道もある」と手を差し伸べてあげてください。
また、うまくいかなかった理由を自分の外側に求めてしまうのではなく、「もっと自分自身にできることはなかったのか」という視点が持てるように声がけをしてあげてください。
子どもがどんなに失敗しても、いいところをほめ、もっと良くなるためにどうしたらよいかを一緒に考えられる親であってほしいと思います。
<回答者> 海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 中村昌子(なかむらまさこ) 1984年から帰国生だけの特設学級(国際学級)を併設する東京学芸大学附属大泉小学校に35年間勤務する。その間、国際学級主任、担任を経験し、帰国生への相談・面接等も担当する。2012年より同校主幹教諭。退職後2019年より、同校非常勤講師、東京学芸大学非常勤講師を務める。2020年10月より海外子女教育振興財団の教育アドバイザー。