<質問>
「人が大好き」という子どもになってほしいと思います。どうしたらいいのでしょうか。
はじめに
この相談は子育ての根本と捉えて、保護者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
いい花の香り
春、花の良い香りが風に乗って漂ってきます。何の花の香りだろうと思い、風上を散策すると、花々が辺り一面に咲き誇っていました。 長い冬が終わり、温かい春の到来は、人のみならず草花にとっても待ち焦がれていたことでしょう。早春の萌黄色に染まる山々を背景に黄や桃の花色は、正に生命の息吹を感じさせる季節です。
いい人の香り
いい人の香りは風に逆らってでも流れてきます。自分のことよりも周囲の人のことを第一に考え、人に温かく接することのできる人はどこに行っても信頼され、本人が好むと好まざるとに関わらず、間違いなく周囲の人からの厚い信望があります。 いい人は「人が好き」で、人のために行動しようとします。人とよく話をし、人とよく行動を共にします。人の幸せを第一に考えることができるので、みんなからよく慕われます。
人の不幸の上に自分の幸福を築かない
逆に、人を踏み台にしたり、人の悪口を言ったりする人は、当然のことながら人に疎んじられます。
「人の不幸の上に自分の幸福を築かない」ことを子供に教えるのは、親として最も大切にすべきことと考えます。
「自分が今、こうしていられるのは周囲の人のお陰」であることをしっかり認識し、常に周囲に感謝して生きていく親の姿勢を子どもにも伝えるべきです。そういった親の背中を見て育てば、子どもは何も教わらなくても「人が大好き」になり、「人に感謝して生きていく」土台を作っていきます。
そして、人とどのように接してどう付き合えばよいのかを自ずと考えられるようになります。自分がされて気持ちのいいことを人に施し、自分がされて嫌なことは人にしないという「人の道」が見えてくるのです。
この道が見えてきたら、しめたもの。自分がされて気持ちのいいことだけを人に施すようになります。それは、屈託なく生活できるようになることにつながり、より多くのことに挑戦しようという気持ちが芽生えていきます。
おもしろがる
子どもが挑戦を始めたら、親は「おもしろがる」ことです。「そんなことはつまらないからやめなさい」と言った途端、子どもの気持ちは萎えてしまい、これを繰り返せば、やる気のない子に育ってしまいます。
子どもが友達と怪獣ごっこを始めたら、「怪獣になるんだったらたくさん食べるといいね!」「怪獣の基は恐竜かもしれないよ。どんな恐竜がいるんだろう?一緒に調べてみよう。」などと声掛けすれば、子どもは俄然張り切って怪獣ごっこに取り組みます。夢の怪獣や地球温暖化を防ぐ怪獣、人を助ける怪獣などを作り出すかもしれません。
自分の気持ちが夢や人の温かさで一杯に満たされた子どもは、他の子どもにも優しく接するようになります。いわゆる「自己肯定感が高まった状態」になり、人のことも好きになります。
次の段階で親がしなければならないことは、怪獣は一人では生きていけないことを伝えることです。外敵から身を守ったり、食料を調達したりするには集団で生きる必要があります。互いに協力し合える状況を作り出すためには、前述したように「人の不幸の上に自分の幸福を築かない」ことです。怪獣一族の掟であり、いい怪獣になるための掟なのだと伝えると効果的です。いい怪獣になれば、さらにいい香りのする友達怪獣が集まってくることも伝えます。
いい怪獣の香りも、風に逆らって流れていくのです。
一緒に想像・行動する
子どもが幼いころは、おもしろがることが大切ですが、学年が進み中学生や高校生になったらおもしろがるだけでは、こと足りなくなります。
おもしろがることの内容を深め、一緒に深く想像し新しいことを創り上げるようにします。
この時期の子は、親よりもはるかに深い情報を持つことがあります。子どもに教えてもらいましょう。親が分からないことをどんどん質問することで、子どもの知識がより豊かになり体系付けられてきます。人に教える行為は、自分の中で知識や考えが体系化され、語ることができるようになった状態です。専門的な知識を持とうとする意欲は、学習面での深まりを伴うことが多く、人間関係を構築する基盤になると考えます。
確かな知識や豊かな技能を身に付け、自分に自信を持てることで心に余裕ができ、他の人の話も安心して聞くことができるようになります。人の話をよく聞き、心を傾けようとする「傾聴」が、人を好きになる入り口と考えます。
対話
対話と書きますとどうしても話すことが中心になると感じてしまいますが、実は聞くことがとても大切であるといえます。相手が何を話しているのかをよく考えて聞き分け、相手に理解してもらえるように自分の考えを話すように心掛けると気持ちの良い対話ができます。対話の中で思考力、判断力、表現力が高まった状態です。
人と関わるには、「よく聞き、よく考え、よく話すこと」が大事であることを伝え、この技能を身に付けられるよう親も意識して子どもと話すようにします。
社交の場に一人の大人として参加させる
小学校3・4年生頃までは親の会合についてくる感覚ですが、小学校高学年・中高生期になったら、一人の大人として社交の場に参加させたいものです。
子どもに「家族を代表してあなたにも参加してもらっている」意識を持たせると、子どもなりに立場を考え社交的に振舞います。
そのために必要な立ち居振る舞いや丁寧な言葉遣いなどは、平素から整えておく必要があります。正しい日本語の使い方や時と場合に応じた対応などは、外地であればなおさらのこと必要であり、子どもが自分自身に磨きをかける絶好の場でもあります。
親が社交的であれば、子どもも社交的に育つ可能性は高いといえます。家族ぐるみのお付き合いは、帰国後もその関係が続くことが多く、「人が大好き」という本命題の答えであると考えます。
日に新た
今日になれば昨日までの自分は、もうそこにはいません。「一歩成長した自分がそこにいる」ことを子ども自身が考えられると一日一日の大切さを感じ取らせることができます。
朝、「今日もどんな出会いがあるのかな」と明るい気持ちで目覚めた子と話すことは、とても清々しいことです。昨日の自分はもういないのですから、昨日のことをくよくよする必要はありません。あくまでも前向きに考えたいものです。
「井の中の蛙、大海を知らず」と中国思想家の言葉にあります。
これには日本のとある陶芸家が、次の言葉を続けています。「井の中の蛙、大海を知らず。されど、天の青きを知る」と。正にそのとおりで、自分は天の青きを知っていると思えば、気持ちは前向きになります。
自然の理
春になれば、いい香りの花が一斉に芽吹き、動物たちの動きも活発になります。
逆に牛を連れてきて、ヒヒーンといななきなさいと言っても、これは無理な話です。
自然には理があり、人には天分の才があります。環境を整えても、子どもが「人が好き」にならない場合があるかもしれません。それでいいと思います。子どもがどうしても人と関わるのが苦手だとしても、無理強いする必要は全くありません。
子どもの適性を見極めず、可能性だけを追求したのでは子どもがかわいそうです。親として子どもの適切な交友関係を広げたいと思うのは当然のことであり、そうすることが務めだと思いますが、そうできるのは子どもの天分を見極め、子どもに適した道を見つけた場合と考えます。
まとめ
外国に次のようなことわざがあります。「人は『一人では生きていけない』というのは間違っている。しかし『一人でも生きていける』というのは、もっと間違っている」と。
言い得て妙。一人では生きていけないのですから、多くの人と関わり、豊かな時間を楽しんでほしいものです。素敵な方々と出会い、素敵な時間を過ごし、明るい未来について語り合えたら、なんと素晴らしいことでしょう。
親が範を示し、子どもと一緒に行動していきましょう。親が人生を謳歌し人と楽しく関わる姿こそ、子どもへのいい手本であり、子どもにとって「いい人の香り」であるはずです。
私自身、いい人の香りがするよう、日々精進したいと思います。
<回答者> 海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 明石 清二(あかし せいじ) 1982年 仙台市立小学校に教諭として勤務開始
1987年~1990年 フランス・パリ日本人学校に教諭として勤務
2009年~2011年 仙台市教育委員会に主任指導主事として勤務
2011年 校長として勤務開始
2016年~2018年 ポーランド・ワルシャワ日本人学校に校長として勤務
2019年 宮城県国際理解教育研究会の会長として活動
2020年~2023年 ベトナム・ハノイ日本人学校に校長として勤務
2023年~ 海外子女教育振興財団に教育アドバイザーとして勤務
2023年~ 宮城教育大学に教育支援コーディネーターとして勤務