<質問>
アメリカ在住ですが、子どもは現地校の勉強で手一杯で、日本の勉強をさせるのは無理な状態です。どうしたらいいのでしょうか?
海外で大切にしてほしいこと
海外子女教育振興財団が開催している海外渡航前の
などのセミナーや、個別の「教育相談」では、「海外滞在中に大切にしてほしいこと」として、優先順位をつけて、次のことを強くお勧めしています。
現地で、しばらくすると
「現地校の勉強で手一杯、日本の勉強をさせるのは無理な状態で日本の勉強がおろそかになっている」
このような課題が、多くのご家庭で発生してきます。 かといって、現地校での学習・活動を疎かにして日本の勉強に重点をおくことは、海外で暮らす・学ぶ意義を失わせてしまうことであり、本末転倒といえます。 あくまで、在籍校での学習・活動に尽くすことを基本としなければなりません。
帰国、帰国後のことを考えると
いずれやってくる帰国、日本での学校生活において大人にはわかる日本の勉強の大切さが、子どもに伝わりにくいのは当然といえます。
今、現地校・インターナショナルスクールで必死で頑張っている、苦労している子どもにとっては、日本の勉強の大切さを感じる機会は少なく、日本の勉強をする必要性は何もないのです。
子どもに勉強の楽しさや必要性をどう伝えるか?
「やり方がわかれば楽しい」とよく言われます。子どもは学習の仕方がわかれば、一生懸命取り組み、先を目指します。そして、褒められたり、良い点数をとったりすることでさらに勉強に打ち込むようになります。
現地校での学習に意欲を持ったり、学習がスムーズに進んでいたりする子どもは、現地校の学習環境(教室、教師の支援、他の子どもからの刺激など)の中で、学習への良いサイクルができていると言えます。
学習する必要性を伝えるための1つの解として、次の3つを挙げることができます。
A.子どもの好きなものと関連付けて教える B.暮らしの中で勉強が役立つ場面に遭遇させる C.世の中の仕事がいかに楽しいか、それに勉強が役立つかを教える
海外での日本の学習には、A・B・Cにおける身近なアプローチが希薄になっていることが考えられます。
家庭での取り組み例
気持ちが日本に向いていない子どもに対して、どのような手立てをとったか、具体例を2つ紹介しましょう。
1.どこへ行っても、朝の日本語・日本の勉強
「夏休みにカリブ海へ行っても、冬休みにロッキーに行っても、トランクに日本語の本と教科書を詰めて、毎朝、勉強させられました……。子どもの時は、朝から勉強で、嫌で嫌でたまらなかったけれど、今では両親に感謝をしています。」
ある帰国大学生の話です。
大切なことは、「薄くとも、短くとも赴任当初からの継続的な日本語の学習」。
冒頭で、赴任前の4つのお願い(海外滞在中に大切にしてほしいこと)を書かせていただきましたが、この4つを全て行う必要があります。
表題の「子どもは現地校の勉強で手一杯で、日本の勉強をさせるのは無理な状態」とおっしゃるご家庭の多くで、現地での学習・言語優先を強く推し進めて、「毎日、日本語・日本の勉強をする」ことをされていなかったことがみられます。
親御さんの姿勢・態度はお子さんに大きく影響します。
もし、「日本語を疎かにしていたな」と思える場合は、これからお子さんに寄り添い、日本語・日本の学習を一緒に進められてください。
2.一時帰国を有効活用
〇国内の学校へ体験入学をした。
〇海外子女教育振興財団が開催する「学校説明会・相談会」、各帰国生受け入れ校が開催する学校説明会などに参加をして、国内進学・受験への意識付けを行った。
日本の勉強がおろそかになっている子どもへの3つの策
気持ちが日本の勉強に向いていない子どもにはどのような手立てをとっていくとよいか、具体的に3つ挙げます。
ただし、大前提として「無理はしない」「現地の学習・生活を充実させること」です。他の教科のことも述べますが、「国語と算数・数学だけでも十分」とも言えます。
1.日本の教科書を親子で読む
日本の教科書は素晴らしいものです。専門家が知恵を振り絞り、学年ごとに割り当てられた学習内容が過不足なく編集されています。内容の正確さは間違いないですし、新しい研究の成果等も反映されています。そして、必要な内容が非常にコンパクトにまとめられています。
教科書を隅から隅まで、お子さんと何度も「一緒」に読んでください(音読も効果的です)。
できれば、学習指導要領(文部科学省が学校教育法等に基づいて各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準を定めている)を一読して、内容をかみ砕きながら、お子さんへ説明されると更に効果的と言えます。
2.新聞を読む習慣をつける
小・中学生新聞でよいので、日本の新聞を読む習慣をつける。
新聞を読む意義は、文字媒体を通して「最新のニュースを知る」「幅広い情報・知識を得る」ことが中心と言えます。海外では不足がちな日本の情報を得られる重要な媒体です。
そして、日本語に触れる機会の少ない海外で生活をしている子どもたちにとっての意義は、「平易な論説文を読み、考える重要な機会を得るもの」。また、小学生版では全ての漢字にふりがなが付いていますので、漢字力に不安を覚える子ども(中・高生でも)にとっても読みやすく、自信のなくなってきた「漢字力の補強になるもの」「社会へのかかわりを増やす素材」とも言えます。 教科書同様、一緒に音読することも効果的です。
3.日本の勉強が将来役立つことを親子で共に考える(まとめにかえて)
お子さんの将来のイメージをまずは親御さんが考えてみましょう。
1つに絞る必要はありません。日本語を母語としない選択があっても良いでしょう。大切なことは、折に触れてお子さんと話し合い、一緒に考え、進路を進めていくことです。
外国語による充実した学習は、日本語による学習、日本語の成長にもつながります。
また、困難な中にあっても努力できたという経験は、どんな環境の変化にも対応できるという自信に繋がります。
お仕着せの説諭などは、人生経験の少ない子どもには、なかなかピンとこないものです。
親御さんの一緒に歩む姿勢、態度に共感して子どもは成長をしていきます。
<回答者> 海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 後藤 彰夫(ごとう あきお) 千葉県と東京都の教員、ワルシャワ日本人学校教諭を経て、東京都公立学校教頭・副校長・校長に。2013年からは6年ほど、本田技研工業株式会社で教育相談室長を務め、2019年より(海外子女教育振興財団)教育アドバイザー。東京都海外子女教育研究会、全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会事務局長も務める。